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風雪のトレイル、北ア表銀座〜上高地へ (2)


前回からの続き。

冬山での事故は、よくセンセーショナルに報道されたりするけれども、統計上は無雪期にくらべて圧倒的に少ない。母数である山行者自体が少ないからというのもあるけれども、実際どれだけの危険が伴なうものなのか、イメージばかりが先行してその実態はいまいち測りかねたりする。道迷いはGPSを持てばいいし、その他装備不足で起こった事故も論外として、雪崩はどうか。でもたいてい雪崩に合うのはバックカントリースキーの人たちが多くて、一般道を歩くハイクで遭遇するのは数としてはレアケースのようだ。転滑落はもちろんある。でもそれは夏でも同じだし、やっぱり場所によるだろう。

よくある冬山の事故のケースは、重い荷をかついで長時間ハイペースで歩き、疲れきった状態で悪天候に見まわれ視界を失い強風に吹き付けられ大雪に埋められ、なんとか逃げ出そうと必死にもがいてそれでも体力尽きて、行動不能、低体温症、凍傷、疲労凍死というデススパイラルにつながるものが多いようだ。体が完全に疲れきってしまうと、シュラフを温めることもできず濡れた衣服も乾かせず、みるみるうちに体温が奪われていってしまうらしい。特にパーティー山行の場合は体力の違う人同士で行くから、リーダーが全員の体力・体調を把握して管理しないといけないのだろうけど、実際は難しいのだろう。

だから、冬山では絶対に疲れないようにしている。山を歩いといて疲れないというのは難しいかもしれないが、そこは荷物をとことん軽くし、できるだけスローペースで歩く。同行者に置いていかれようとも、その日の目的地にたどり着かなくても、悪天候に見舞われても、急がず慌てず落ち着いてビバークできる体力を残しておく。そんなことは冬山教本には書いてないかもしれないけど、”Lite & Slow”こそが、人より体力があるとはいえない僕が冬山を楽しむための最適解かなと、今のところはその方針で行くことにしている。

…あぁすいませんでした、ぜんぶ足の遅い言い訳でした。本当にスミマセン。がんばるのとか嫌いです。運動も好きじゃありません。ただまったりと歩きたいだけです。なんだよ、いいじゃん遅くったって!

29日の朝8時、いよいよ表銀座の稜線を南下開始。見渡す限りの晴天、左手には安曇野に広がる雲海、右手には北アの奥深い山々が広がる極上のトレイルを歩く。気温はマイナス13度。さほど寒くない。

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なだらかで美しいラインがはるか彼方まで続く。今まさにこの稜線を歩けるのだと思うと小躍りしたくなるほどうれしくなる。冬の時期にこれだけの天気に巡り会えたのはラッキーとしか言いようがない。”神様”という概念はいまいちしっくりこないが、この幸運をもたらした何者かに感謝の意を捧げたい気分だ。かみしめるように、一歩一歩まったりと歩きはじめる。

獣の足跡のようなトレースがうっすらと残っているのでそこを辿っていく。鹿か?こんなところを歩くのか?

雪庇のうえにできた風紋が朝日でくっきりと浮かび上がる。まぶしい、ゴーグルをかける。昨日のようなハイクアップでなければ曇らない、大丈夫だ。

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右手に広がる山々。あそこは秋に訪れた雲の平のあたりだろうか?すっかり景色も様変わりしている。行ってみたい。いつの日か冬の黒部源流へ行くことになるんだろうか?あぁそんな発想するなんて、すっかりこの景色に魅了されている。いやいやムリでしょと自分に言い聞かせる。

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昨日に引き続いてスノーシューを履いて歩く、空を昇っていく空中ハイクだ。

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photo by mt_hanter

こんななだらかなトレイルが、こんな晴れ晴れとした天気が、どこまでも続けばいいのに。ハンさんと一緒に思わず顔がニヤける。ウシシ

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途中にあった、岩のゲートをくぐる。洞窟のようだ。スノーシューを履いたまま無理やりよじ登った。

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なにやら崖に雪がかかって、おもしろいかたちをした雪庇になっている。あまり左側に近づかないように注意しながら歩く。

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たぶん、重い荷を背負って下を向いて黙々と歩いてると、知らないうちに雪庇に吸い込まれてしまったりするんだろうな。幸い僕らの荷物はそこまで重くない。顔を上げ、稜線の景色を思う存分堪能しながら歩くのだ。

槍ヶ岳のあたりはとんでもないことになっている。またこことは一段ちがった世界なんだな。将来あそこに行くことになるのだろうか、いやそれは、しかし… ブルブル

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ここまであまりにゆっくり来すぎたので、コースタイムを大幅に上回ってしまっている。今日の行程は常念小屋まで行ければいいかなと思っていたが、このペースだとちょっと怪しい。

焦ったのか業を煮やしたのか、ハンさんがペースを上げはじめる。

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どんどん先を行くハンさん。その先に構えるのは大天井岳。

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いよいよ大天井岳に取り付く。表銀座の稜線はずっと2500-2600mのなだらかな道が続くもんだとばかり思い込んでいた。それにしては大天井岳の北面は険しい。どうしたことか?こんな山の名前はあまり聞いたことがなかったのですっかり甘く見ていた。よくよく地図を見てみると2900m以上もあるじゃないか。おぉ300m以上のハイクアップがこんなところに!

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無雪期にはちゃんと道があるんだろうか、雪が被ってよく分からないので岩の急斜面を直登する。なかなかハードだ。いよいよ両手を使わなくてはならなくなって、スノーシューを外しアイゼンに履き替える。こんなのクライミングじゃないか。ジャンダルムの悪夢が思い起こされる。そうこうしているうちにハンさんは山頂を過ぎて見えなくなった。

やっとの思いで登り切るとまた一風変わった景色に。この世の果てか、神々の住まいか。頂上はどこだか分からないが、休むことなく先に進む。

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山頂からすこし下ると小屋があった。ここも無人で中には入れない。パンとカロリーメイトを食べ、サーモスに入れた温かいはちみつレモンをニ杯飲んでひと休みする。レモンの酸味が体に染み渡る。

ハンさんの姿はどこにも見えない。はるか先へ行ってしまったようだ。そんなに急いでどうするのか、せっかくの稜線をもっとまったり歩けばいいのに、と思いながらゆっくりと贅沢な時間を過ごす。

13時半、まだ進めるだろう、いよいよ出発。大天井の先にさらに続く尾根に向かって歩き始める。その先には槍ヶ岳。…え、槍?いや違う違う、そっちじゃない、方角を間違えて10分ほど歩いてしまった。あの険しい山々に呼ばれてしまったみたいだ。我に返って道を引き返す。いつか行くかどうかは分からないけれども、今はあそこには行かないんだ。

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そうそう、こっちのなだらかな尾根。これが目指すべきルートだ。まだまだヌルい道が続いてるぞ、あぁシアワセ。

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あっちは涸沢だろうか、冬は雪崩の巣らしいけど、加藤文太郎は真冬にあそこから奥穂高に上がったりしてたらしいじゃないか、行けるんだろうか、いやそんなこと考えちゃいけないブルブル

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天気はいよいよ快晴。まったく崩れる気配がない。360度見渡しても雲ひとつない。常念小屋までしばらくあるけど、この状態なら日が暮れても月明かりで歩けるだろう。ペースはあげない。

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今来た道を振り返る。あれが今通り過ぎてきた大天井岳だ。そのずっと向こうが燕山荘。

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雲海もなくなり、街が見下ろせる。

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あまりにゆっくり歩きすぎて、いよいよ日が落ちてきた。穂高の向こうに日が落ちる。

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北穂の肩だろうか、足を止めその光景を見守る。

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赤く染まる空と、山の深さのコントラスト。言葉にできない光景にしばし心を奪われる。

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大丈夫だ、月も出ている。少し冷えてきたが、まだ歩ける。

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空中回廊は、夕焼けと月明かりの色に染まって微妙に味わい深い表情を見せている。

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いよいよ常念小屋に向かう。あとは下るだけだ。街にも灯りが見えだしてきた。

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あそこが常念小屋だ。樹林に入ると急に雪が深くなり、腰まで埋まる。スノーシューをつけるのも面倒なので雪にまみれながら一気に突っ切る。小屋に近づくとハンさんがライトで合図を送ってくれた。もっと先に行っててもおかしくなかったが、彼もあそこで停泊することにしたのか。

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常念小屋も営業はしていないようだ。中にも入れない。建物を風よけにしてハンさんのとなりに幕営し、パンとカロリーメイトを食べ就寝。冬はあまり火を炊いて調理をしたくない。燃料もかさ張るので、湯を沸かす最低限の器具以外はすべて固形食を持つようにしている。寒いなかで料理ができるのをじっと待つよりかは、さっさと食べてシュラフに潜り込みたいのだ。

お互い、今日のトレイルの素晴らしさを語り合って眠りにつく。

翌朝、6時半に起こされる。雪を溶かして湯を作り出発の準備を整える。先に見えるのは常念岳だ。今日はあそこを超えてその先へ向かう予定。

仲良くおそろいのテントです、はい。

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予報によると今日は天候が悪化するという。昨日のような好天は望めないだろう。空もやや曇りがちで風も出てきたように思える。

常念岳をハイクアップ開始。コースタイムによると1hだけど、どう考えてもそんなペースで登れない。あぁこんな岩々したところは嫌いなんだ。なだらかな尾根はまだかなぁ。

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後ろを振り返る。昨日歩いた尾根がずっと遠くにつづいている。空にはまだ青い部分が見える。もう少し大丈夫だろうか。

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しかし西の空には、あまりよろしくなさそうな雲がぐいぐいと近づいてきている。ちょっと焦る。ペースを上げるか?いや待て、ここで焦っちゃいけない。どうせ急いでも僕の体力じゃたかが知れてる。温存温存。

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山頂に到達。ここも2800m以上あるみたいなのでなかなかに辛かった。風も強くなりはじめて寒い。

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この地点から信州側に向けてエスケープルートがあり、下っていけば今日のうちに温泉にあずかれるかもしれないのだが、と言ってみるも、ハンさんは聞く耳もたず、心ここにあらず、もう先に進むことしか目に入らないようだ。トレイルミックスをつまみ、湯を飲んで先へ進む。

ここから先はまた下りだ。下のほうに樹林帯が見える。いよいよ天空の稜線も終わりが近づいたのだろうか、すこし心残りだが、天候も気に掛かるし…

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下りは岩場の急な道だったがさほど難しいわけではなく、しかし風がどんどん強くなってきている。不意の強風で体が50cmほど真横にふっとばされる。大きな岩の影にかくれてやり過ごしたりしながら、だましだまし先へ進む。あの樹林帯まで行けば風から逃げられる。

ようやく樹林の入り口に到達。雪が深くなる。ここでスノーシューを装着。ハンさんはワカン。

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僕が雪をかきわけラッセルしながら先を行き、ハンさんが後ろからついてくる。ん?なんでこんなときだけ後ろ?(笑

ワ「昨日までみたいに、先に行ってもいいよ?」

ハ「え、いやいやおまかせしますよ、どうぞどうぞ。やっぱワカンではさすがに、僕もこんどスノーシューにしますから」

ワ「・・・」

樹林のなかの小ピークを超え、また下り、トレースがなくなり、雪の斜面をシリセードで滑り降り、また歩く。雪深いトレイルもまったり楽しいが、ときおり木々の間から風が強く吹きつけてくる。雪がパラパラと降り始める。

あの先に見えるのは蝶槍か、目指すルートでは再び樹林を抜け出し吹きさらしのあの尾根をハイクアップして、蝶槍の向こうから下っていく予定なのだが、不穏な雲が今まさに迫ろうとしているではないか。

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蝶槍を見上げてハンさんはすっかり意気消沈している。わかりやすい人だ。

ハ「あれは… K2だ!悪魔の山だ!」ブルブル

ワ「いやいやw」

いよいよ蝶槍の取り付きまで近づく。降雪が勢いを増し、山頂はもう雲が覆いかくして見えなくなってしまっている。いよいよ悪天候に追いつかれてしまった。

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どうする?ここを登るのか?たぶん上は吹雪と強風の吹きさらしだ。ホワイトアウトしてるかもしれない。これからおそらく2〜3時間以上もそんななかを歩くなんて、こんなとこ登っても辛いだけで楽しくないぞ。

しかしエスケープルートはない。常念岳を登り返して戻るわけにも行かない。ハンさんもテンション下げ気味だ。ここでビバークか?でも天候は明日以降さらにひどくなるという予報らしい。だったら今突っ込むか?

あぁどうする?

(つづく)

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カテゴリー:hike, Outdoor
  1. 2010-01-0723:55

    わんわんさん 楽しみにしてました~
    臨場感があって読んでてテンションあがります。
    そして共感できるとこがたくさん。。ゆっくり歩きたいとことか。

    ちなみにテントでは熟睡できるんでしょうか。
    私こないだ寒すぎて寝れなかったので…

  2. ane
    2010-01-0802:13

    神々しい景色ですねー。地球はほんとうに綺麗ですね。
    真っ白なのに葉っぱがついてる木があるのですね。すごいですね。植物って。いちいち感動しちゃいますな!

    文頭の文章、お勉強になりますです。
    わんわんさんも私と同じチーム最後尾でいいじゃないですかー♪

    腰まである雪で歩けたのですよね?
    私、カナダで雪に嵌って動けなくなって助けてもらった、という苦い思い出があるんです。
    腰まではない雪でしたけど、歩けませんでした私。コツがあるのでしょうか…?

    スノウシューとアイゼンて違う物だったのですね。
    あんまり意識してないから気が付かなかったですけど、同じ物だと思ってました。ははは。

  3. わだっち
    2010-01-0812:18

    はじめまして。時々おじゃまさせていただいてました。

    表銀座、いいですね~冬景色がどれもきれい。
    雪の冬山は体力消費するでしょうね、でもいつか私も行ってみたくなりました。
    退化しきった足腰を低山で少しだけ鍛えて、まずは夏から、で。。。

  4. 2010-01-0815:45

    > すずさん
    世の中、早けりゃいいと考える鉄人が多くて困りますよね(笑
    でもさすがに僕のスローペースには、幾多の女子たちもあきれて置いていかれました。山でだけじゃないですけどorz… もはや僕のペースについてこれるのは世の中広しといえどもtoriさんくらいしかいませんよフフフ

    おや、さくぽんを抱いても#1で寒かったですか?#1はダウンの内包量がたしか570gくらいだったかと思いますが、ボクのは880gのやつなので、ちょっと一段ちがいます。-20度でも暖かく眠れましたよー

    シュラフもそうですが、冬で寒いときはまずはマットが原因であることが多いようです。二重が基本みたいですよ。僕は銀マットなんかを追加したりしてます。

    それでも寒かったら、夏用シュラフを重ねたり、キャンプならほこほこダウンの上下を着込んだりするといいかも。あとはできるだけ血行促進するような飲料だったりタイツだったり、馬油とか体に塗ると効くのかなぁ、局所的ですけどハクキンカイロなんていうアイテムもいいかもしれません。女性は基礎代謝が男性より低いらしいので、よけいに保温対策は必要ですよね。

  5. 2010-01-0815:58

    > aneちん
    チーム最後尾… いやね、toriさんが、aneちゃんについていくのに実は必死になってるの知ってますか?あなたけっこう体力ありますよ… もっと休憩を入れてあげてください(><)

    腰まで雪だと、もう雪まみれになりながら、転がりながら、ですが。なのでスノーシューというのを履きます。これがあるとある程度は浮きます。もっと軽くて安いワカンというのもあるけど、スノーシューのほうが舶来でかっこいいのでうへへへ

  6. 2010-01-0816:03

    > わだっちさん
    こんにちは! 表銀座、とっても綺麗でしたよー。でもアプローチするのに2日かかって、それで晴れる確率も低いので、やっぱり行きにくいところではありますよね。もう少しアプローチしやすいところでスノーシューハイクなら、すぐにでも大丈夫だと思いますよー

  7. 2010-01-0909:10

    おお、このどっぴーかんの日。
    豊科のホムセン屋上から稜線を眺めていましたよ。
    ハンさんが先行するものだからはらはらしたり、
    呼びかけても声は届かないし。

    おかげさまで氷漬けの常念山頂を見ることが出来ましたよ、
    ごちそうさまであります。

  8. 2010-01-0920:55

    はじめまして、注目の記事からやってきました。
    かなり本格的な山遊びやってますね!
    私もへなちょこですが・・・雪山大好きです。(今は島暮らしでまったくいけてません)
    これからも、ちょくちょく、遊びにこさせていただきます。

  9. 2010-01-1500:06

    > いまるぷ先生
    おかげさまで極上の尾根歩きを楽しめましたよ!雲のときもそうでしたが、松本でお会いして幸運をいただいたみたいで。
    北へ行く人は、みんないまるぷさんに挨拶しにいくと素晴らしいトレイルを楽しめるよと、吹聴しておきます!

  10. 2010-01-1500:08

    > kenzy212さん
    こんにちわはじめまして!
    いやいや、体力もなくへなちょこなので、北アルプスはこれで足掛け3年目にしてやっと上まであがれたんです(汗
    それにしても島暮らしうらやましいですねー。
    どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

  1. 2010-01-0902:30

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