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鳳凰トレイル Thru-Hike 2009.3.5-7 (1)


ブゴフィッ!!

野太い野生の嘶きが闇を裂いた。月明かりのナイトハイクに気を良くして歩いていた身体が一瞬に緊張してこわばる。両の手に持ったストックをぎゅっと握り締める。このあたりは鹿や猿だけでなく猪がよく出るというタクシーの運転手の話が頭を巡った。

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南アルプスの懐、無雪期の昼間であれば登山客で賑わうはずであろう夜叉神峠に向かう山中、深夜2:00。JR韮崎駅からタクシーで乗り付けた登山口から歩いて30分もたったころだろうか。

次の瞬間、枝を踏む音がものすごい速さで移動する。向こうも突然夜中に現れた異邦人に驚き慌てているのだろうか。月明かりはしかしわずかに山道だけを照らし、藪の中を走る獣の姿は影すらも見えない。こっちへ来るな、どこか遠くへ行ってくれ。

息を潜め、こちらの動きを感づかれないようにじっと静止する。いや、恐怖で身動きできなくなっているといったほうが正しいだろうか。僕には焦った獣の突進する方向をどうにかする術は持たない。まったく世の中はどうにもならないことだらけだ。自分の力で運命を切り開けるなんて信じるほど楽天家でもない。しかしこの場合は、せめてできるだけのことはやっておくべきだろうという気がしたのだ。とにかくどうする? 声を出して威嚇すべきか? いやそれはまずい。ピッケルを出す? ストックを振り回す? 怒らせちゃダメだ。あぁそうだライトをつけよう。

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ヘッドライトを照らし、あたりをゆっくり見回す。敵は、少し遠くへ行ってくれただろうか? ガサガサと葉を踏む音が離れて行くのが聞こえる。しかし安堵したのも束の間、今度は山道の反対側で枝を折る音が大きく響く。つがいだったのか? 心が折れる。もうダメだ…w

藪の中でバキバキと枝を踏む音は数秒間続いた。じっと離れて行くのを待つ。しかしもうなにも信じられない。この山の闇の中、どこになにが潜んでいるか分かりやしない。戦乱のソマリアやアフガンで見えない敵に囲まれる心境とはこういうものだろうか? これはテロだ、アニマルテロだ。熊鈴を持ってくればよかったなぁと思うが今更どうしようもない。せめて口笛を吹こう。不意に選んだ曲は”Lucy in the Sky with Diamond”だった。

一曲をゆっくり吹き終わってようやく歩き始める。すこし元気になる。音の主は去ったようだ。引き返そうかとも思ったけれどもそれも怖い。さっき去った獣が後ろに回り込んでいるかもしれない。とにかく先に進もう。口笛はエンドレスにビートルズをループしながら早足に歩みを進める。

今回目指すルートは山梨県の西部に広がる巨大な南アルプスの山塊、その入口に控える鳳凰三山だ。冬でも比較的アプローチもしやすいうえに人は少なく、入門ルートとしてうってつけだと狙っていたが、昨年に二度、今年も一度トライして敗退してきた因縁のトレイルだ。

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夜叉神登山口までは韮崎駅からタクシー深夜料金で9000円かかった。予定ではそこからゆっくりハイクアップして森林限界を越え、標高2780mの薬師ヶ岳、2840mの観音ヶ岳を経由して、御座石鉱泉へと一気に下る。昨年は逆ルートからトライしたが登りのキツさと雪の深さに敗退を余儀なくされたため、今回は南斜面で雪が少なく傾斜も緩そうな夜叉神峠から入ることにした。

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今回は土日の休みしかないため金曜夜からのナイトハイクを織り交ぜることにした。しかし天気予報は悪い。土日両日とも雨予報だ。森林限界を超えても雨になるのか雪になるのか分からない。金曜日の甲府市の日中気温は21℃まであがったようだ。

深夜2:30。夜叉神峠まで上がる。ここは前回雨で引き返した場所だ。またガサガサと暗闇の奥で獣が逃げる音がする。先へ進もう。

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道に凍結した雪が現れ始めたのでMICROSpikesを履く。今回はアイゼンではなくこれで乗り切るつもりだ。はじめての装着だが調子は良い。

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深夜3:00。夜叉神小屋を越えて大崖頭山へのハイクアップの最中、ポツポツと雨がふりはじめてきた。レインハットを被る。心中はまだ獣の影に怯えている。曲目はいつしかビートルズメドレーを一周し、”While My Guitar Gently Weeps”を吹き終わってからクラプトンメドレーに入った。深夜の南アルプスに泣きのギターリフが響く。

深夜4:00。月が完全に隠れてあたりが暗くなった。ヘッドライトをつけて歩くも雨足はだんだん強くなってきている。南アルプスの本脈側からゴウゴウと風がぶつかりあう音が遠くに聞こえる。口笛を吹き続けながら登るのも疲れた。大崖頭山の山頂はあきらめ途中でビバークすることにした。今回はシェルターは張らず、モンベルのブリーズドライテックU.L.スリーピングバッグカバーをビビィ替わりにして眠る。雨の中手早くセッティングして潜り込む。外気温も-3℃程度なので十分に暖かい。ザックにはレインウェアを被せて濡れないようにした。

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すぐ近くだろうか。ゴウウッとさっきよりもずっと大きな音で、北から南へと風が何度も通り過ぎる音が聞こえた。心休まらぬままに眠りに落ちる。

翌朝。目覚めたら9:45、しまった寝すぎた。雨はまだ振り続けているがシュラフカバーがしっかりとはじいてくれている。中も結露せず暖かく眠れた。もぞもぞと這い出しパッキングを済ませる。靴を外に出しっぱなしにしていたので中が濡れてしまった。これから本格的な積雪地帯へ向かうというのになんたる失態。

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昨晩は暗闇の中で分からなかったが、寝ていた場所はこんなところだった。

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50mも歩かないうちに大崖頭山の山頂に着いた。なんだこんなすぐ近くだったのか。今日はできれば南御室を経由して薬師小屋まで進みたい。

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樹林帯をゆっくりハイクアップ。傾斜はなだらかで心地よい。

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雪の量が増えてきたが、振り続けるのは雨だ。まだ当分は降雪になりそうにはない。

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今回のソフトシェルパンツはPatagoniaのBackcountry Guide Pants。前回はArc’teryxのGamma AR Pantsを履いていったが雨のなかで浸水してずぶ濡れになった。BCG Pantsはやっぱり調子よく、雨もものともせず弾いてくれる。やはりレインパンツはいらないなと思いを強くした。

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グローブはライナーの上に防水ミットを装着する。

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しばらく歩くと本格的な山装備に身を包んだ若いカップルに追いつき、抜きつ抜かれつしながら並走して進むことになった。南御室まで歩いてピストンで降りるらしい。

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しかし話を聞いていると、夫婦でもなく付き合っているわけでもなさそうだ。どうすれば付き合ってもいないガールをこんな時期こんな場所まで二人きりで連れてこれるんだ?? すごい、見習いたい(笑)

南アルプスの本脈は雲に隠れて見えない。わずかに裾部分だけが覗いている。あの奥に超弩級の山脈がそびえているのだが、山行中一瞬でも晴れるといいなぁと願いつつ。

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雪はいよいよ深くなる。今回はスノーシューを持ってきていないため、何度もずっぽりと腰まで埋まる。そのたびに硬くて重い雪から這い出して息が切れる。

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12:30 南御室小屋に到着。標高2400m付近。小屋は開放されていたので中に入って休むことにした。

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雨足は一層強くなってきており、屋根を打つ音が騒がしい。カップルが湯を沸かし料理を作るのを横目におにぎりと魚肉ソーセージを口に詰め込みさっさとシュラフを広げて一寝入りする。予報では15時くらいから雨があがるらしいがどうだろうか…? 雨があがらなければここで停泊するか? いやそれでは日曜のうちに下山できない。突っ込むしかないな。そんなことを考えながらウトウトと眠りに落ちる。

15:30に目を覚ます。晴れている! 傾きかけた陽光がまぶしく雪面を輝かせる。

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行こう、薬師ヶ岳へ。今日のうちに森林限界の上に出るんだ。ここでテント泊するというカップルに別れを告げ、小屋から続く尾根に向かって急斜面に取り付き始める。

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何度も雪に足をとられながら登攀を続ける。徐々に高度を上げて行く。トレースはない。

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また腰までずっぽり雪に埋まる。片足が挟まって抜け出せない。力を入れると股の関節が抜けそうだ。15分くらい格闘する。ストックの柄を使って雪を掻き出し掘り出しようやく足を抜けることができた。時間は刻々と過ぎているが、森林限界はまだ見えない。

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風が出てきて再び天候が傾き始めた。夕闇も近づいてきている。靄があたりを包んで幻想的な雰囲気になる。

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18:00。標高2700m、やっと森林限界の上に出た。しかし日は落ちてしまった。今夜は月も見えない。ライトをつける。もう少し先に進んでみよう。この先に薬師小屋があるはずだ。

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暗くてルートが見えない。尾根を巻くのだろうか? と思って進んでみるも、急斜面の樹林に阻まれ雪にまみれて引き返す。ソフトシェルグローブがすっかりびしょ濡れてしまった。さっきの南御室で防水ミットを外してザックに入れてしまったのだった。肝心な時にいつもこうだ。

引き返して雪の急斜面を直登してみる。ピッケルを出すのがめんどくさいのでストックで無理やりよじ登った。MICROSpikesはよく働いてくれ、足元に不安は感じなかった。上がってみると岩稜の尾根だった。樹木はなく、風に吹きさらしてところどころ雪がついてないところが見える。この先に小屋があるのだろうか? しかしルートに確信が持てない。へたに動いて体力を使うのも嫌だ。ここでビバークすることとしよう。

岩の影にマットを敷いて、昨晩と同じくビビィ泊とすることにした。濡れたソフトシェルグローブと靴のインソールをシュラフの中に放り込み、上下のダウンを着込んで潜り込む。

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雪山の森林限界の上、そうだここは下界から最も遠い場所のひとつだ。真っ暗闇の夜にただ一人、幕も張らず無防備な状態で眠る。至福と孤独が綯い交ぜになったようなそんな気持ちをどうにか落ち着かせる。ときおり冷たい風が強く吹きつけてくる。昨晩よりもさらに大きい音でゴウゴウと風の音が鳴り続けていた。

(つづく)

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カテゴリー:hike, Outdoor
  1. こいっち
    2010-03-0915:56

    うおーおもしろいっす。
    なぜ夫婦でもない恋人でもないカポーが一緒に山歩ける
    謎はワタシも知りたいっす。
    早く続きを!!

  2. 2010-03-1012:58

    続きが猛烈に待たれます!
    年末年始歩いたところだけに、ビバークされた場所が想像つき、あんなところで寝られたと思うとすごすぎます。冒頭からびくびくしっぱなし、入り込んじゃいました。更新楽しみにしております!

  3. 2010-03-1018:36

    何と何と・・・恐ろしい山行ですね~
    読んでる側からすれば、面白いのですが・・・
    私には到底真似できませんが、つづき楽しみにしております。

  4. 2010-03-1112:14

    獣の気配なんて察知してしまったら
    絶対前にも後ろにも動けません。
    本当、よくぞご無事で・・・・!
    続きがはやくみたいみたいみたい~

  5. 2010-03-1211:04

    > こいっちさま
    そうなんです謎なんです…w 行きたいですか?
    で、では、ぼぼぼぼくといしょいしょにやまやまやままままfjこkくwm;ln…
    あぁやぱりダメでした…

  6. 2010-03-1211:06

    > nari0000000000さま
    おぉ年末年始に行かれたのですね! そのときのほうがさぞ気温も低く風も強くエクストリームだったことでしょう。
    冬山でビビ寝ははじめてでしたが、幕を張らないのは楽でよかったです。

  7. 2010-03-1211:08

    > チャイさま
    うふふ、夜中に獣に出くわしたとき以外は、わりとヌル〜くて楽しいハイクでしたよ!

  8. 2010-03-1211:11

    > サンダーさま
    いやー僕もしばらく動けませんでした…(^_^;) ケモノ、コワイっす…。
    でもガールのほうがいろんな意味でもっと怖いのは内緒ですw

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