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夏山の雨

長野県のHPに”平成20年山岳遭難統計“というPDFがあって興味深い。

様態別発生状況というのを見る。
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遭難件数は182件199人、うち44人が死亡。転落・滑落・転倒が圧倒的の112件で61.7%。道迷いは意外に少なく15件、8.2%しかない。道迷い後に転倒したりして遭難するのは前者に含まれるからというのと、長野県ではやはり森林限界を越える山域が多いから見通しもよく逆に高所の岩場が多いので道迷いよりも滑落・転倒のほうが多くなる傾向があるということか。これが奥多摩や秩父だったりすると数字も違ってくるんだろうなぁとか。

で、例のトムラウシの件で一躍注目を浴びた”低体温症”による遭難事例はどうかというと、たぶん”疲労・凍死傷”の項目だろうと思うけど、発生件数は11件で全体の6%、そのうち死者・負傷者ともにゼロでみんな無事救出されている。

で、この資料の面白いところは、個別事例も一覧表にしてくれているところ。ためしに”疲労・凍死傷”の項目をピックアップしてみる。

1) 1月1日、お正月登山か、ラッセル中に疲労で行動不能になった70才男性単独。

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2) 4月20日、3名パーティで山スキーでルートを誤って行動不能の56歳男性

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3) 5月3日、白馬を山スキー単独行で道迷いののち行動不能の47歳男性

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4) 7月30日、晴れ、常念岳で4名パーティー中の67歳女性が疲労により行動不能

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5) 8月9日、晴れ、白馬岳で疲労で行動不能の60歳女性、32名パーティだからツアー登山か?

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6) 8月14日、雨、槍ヶ岳に向けて登山中に4名パーティのうち1名25歳男性が疲労でビバーク、翌日自力で下山。って遭難してないじゃん。でも一応8人が出動してヘリも出てる。

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7) 8月16日、雷雨、御嶽山で5名パーティのうち3名、親子連れか?装備不十分のうえズブ濡れで低体温症になり行動不能。これはケースとして似ているなぁ。でも全員無事救出。

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8) 9月22日、雨、仙丈ヶ岳、単独行の73歳男性が下山中に疲労で足の痛みとなり行動不能。低体温症というわけではなさそう。

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9) 中央アルプス、暴風雨、女性2名パーティで低体温症から疲労により行動不能。これはドンピシャなケースか。でも無事救出。

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10) 10月12日、晴れ、3名パーティーのうち78歳男性が疲労により行動不能。

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11) 10月13日、晴れ、18名パーティのうち69歳男性が疲労による体調不良で行動不能。これもツアー登山かなぁ?でも無事救助。

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以上

こうしてみると、意外と冬山での低体温症というのはケースが少ない、というか単なる疲労をのぞくとゼロだ。まぁ山行者自体が少ないからというせいもあるとは思うが。

トムラウシのような無雪期に暴風雨にさらされての疲労から低体温症に至り行動不能になるケースとしては、11件中2件程度だろうか。少ない、少ないよ。こうなるとどれだけの人がこのケースで死者が出るほどのリスクを想定できただろうか、と疑問にも思う。山小屋もエスケープルートも整っているアルプスで山行歴を積んで装備やスキルを最適化してしまったら、それは他の山域では通用しないしある意味危ういということか。

件のケースでは、装備の不備だとか中高年の体力不足なんかが指摘されたりもしてるけど、体力的に有利なはずの30代のガイドも、ゴアのアウターを着ていた60代ガイドも行動不能になってるし、美瑛岳で死亡した男性はゴア上下を着ていたともいうし、夏山の暴風雨はハードシェルですら不足なのだとするともはやお手上げじゃね?

で、どうする?何持ってく?

・ダウンセーターはたぶんびしょ濡れになって使い物にならなくなるんだと思うと、やっぱ化繊の防寒具かな?プリマロフトなんかのベストとか。なんかいいやつないっすかね?

・ミズノのブレスサーモは見直されてもいいんじゃないかと。汗で濡れたら発熱するっていうのは、冬期用装備としてはむしろ行動中はもともと暖かいわけで、運動しないと発熱しないんじゃ意味ないじゃんとか思っていたけど、夏山の暴風雨対策としては実はいけてるのかもしれない。

・フラッドラッシュスキンメッシュは夏山の雨でズブ濡れが想定されるときは使えるかもしれない。ウェアが濡れても一定の飽和量を越えてなければ体表はサラサラに保てるか。

・寝具も化繊シュラフか、やっぱり。ちゃんとどんな環境でも疲労回復できるようにマットも寝心地がいいものを持っていったほうがいいね。で、稜線上でも雨風をよけられるビバーク装備は必須と。

・豪雨で溢れた川を渡渉するとなると、レインパンツを履いたとはいえやはり水が浸水してくるのは避けられないんだろうな。ずっこけでもしたらもう大変。うーん、これは対策の取りようがない。ネオプレンのアンダー上下、いやウェットスーツでも着込むか?着替えを持っていたとしても吹きさらしの暴風雨のなかで着替えられるだろうか?両足先から胸くらいまでをすっぽり覆える超軽量の渡渉ギアの登場が待たれる。あるいはゴアソックスとレインパンツとレインJKTを止水ジッパーで連結できるようにするとか・・・?

うーん・・・今のところすっぽり安全対策が抜けてるのは渡渉だな。ま、そんな川を目の前にしたら迷わず引き返しますけどね。

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山は本当に危険なのか?

なんかまた挑発的なエントリーを書いてと諌められそうですが。。。

とにかく「山」というとそこは恐ろしく危険な場所だというのが大前提といいますか、登山者から一般人までほとんどの人の共通認識になってますよね。いわゆるジョーシキです。遭難事故のニュースもよく報道でとりあげられますし、その度に登山者の不注意とか装備の不備とか責められたり、私もよく登山用品店で店員のオジさまに説教されたりしますけどね、そんな靴で山に行っちゃいかん!とかピシャリと言われて悲しい気持ちで帰ってきたりします。ちょっと聞いてみただけなのにorz…。で、お気軽ハイクをブログにアップすると初心者があんな装備でうんぬんなんて揶揄される始末。

「山は危険だから」その一言がまるで印籠のように問答無用でいろんな楽しみやら取り組みやら思考やらをなぎ倒してしまってませんかね?

そして、そもそも山ってどれくらい危険なんでしょうか。不思議なことに今までその危険さの裏付けや根拠を聞いたことがないなと。個々の事象をあげつらっても仕方がないわけで、統計データをもとにマクロに判断する必要がある。

警察庁によると平成19年度の遭難発生件数は史上最高の1484件(あれ?これだけ?)。レジャー白書での登山人口は2004年時点で650万人だという。タイムラグがあるけれどもめんどくさいのでこれで計算すると、登山人口10万人あたりの遭難発生件数は23件。遭難発生率に直すと0.02%。登山人口を仮に1/10に見積もっても10万人あたりで230件。さて、これは多いのか?少ないのか?これをもって山は恐ろしく危険な場所であるとの判断材料になるだろうか?

比較対象にするなら交通事故が分かりやすいだろうというのでwikipediaで調べてみると、2004年の交通事故死傷者数はなんと年間120万人(!)で、人口10万人あたりの人身事故発生件数は743件らしい。本当か!?すごいなこりゃ。

もう一度整理しますよ。

– 登山人口10万人あたりの遭難発生件数・・・23件/年間

– 人口10万人あたりの人身事故発生件数・・・743件/年間

この数字で判断するならば、

圧 倒 的 に 町 の 方 が 危 険 じ ゃ な い で す か。 

しかも町は交通事故だけじゃなくて様々な犯罪やら火災やら地震やら薬害に食品事故にテロに戦争まで起こりうるわけですからね、むしろ山はなんと安全なところなのか、とにかく危険を避け死にたくなかったら山へハイキングにでかけたほうがいいんじゃないの?と。そりゃもちろん警察やら救助隊やら山小屋やらいろいろな人たちの取り組みの結果だとは思いますけれどそれにしたってねぇ。

まぁむしろ交通事故の深刻さのほうが、ある方面の意図で隠されてるだけなのかもしれないですけどね。大広告主様ですからね。

ちなみに死者・行方不明者は259人で、そのうち中高年が237人を占めるらしい。ってオイオイ(^_^;。単独登山者の遭難件数は509件で全体の1/3か、単独が危険かどうかもまた別の議論になるけどね。また遭難理由の1/3が「道迷い」だとか。GPS持てば済む話だな。続いて「滑落」と「転倒」がそれぞれ10%以上。

でね、仮にこの数字から判断できる結論が間違いないのだとしたら、いったい誰が「山は危険」なんて言い出して喧伝してまわっているのか。まぁ想像するに、最初は山岳小説からスタートしたんじゃないかと。新田次郎の「八甲田山死の彷徨」なんて読んだ日にゃもう恐ろしくて泣いてしまいますもんね。で、その山岳小説的な世界観を支持するいわゆる”登山”カルチャーができあがってきて、”危険漂うロマン”なんかに酔いつつ、自称ベテランが我が物顔に初心者を脅したりして、大マスコミから登山雑誌までのメディアが危険を煽れば、登山用品メーカーが安全性を訴えて重たい道具を売りますよ、という構図なんですかね?山小屋は安全確保を大義名分にしてたりしませんか?

なんかね、この危険性云々に関わらず、いわゆる登山カルチャー(クライミングは別)って根拠のない”常識”を振りかざすだけで、あらゆることに裏付けとか理論立てとか検証とかそういうことをしないんじゃないかと疑問でならないですよ。登山用品店のオジさんも「危険だから」の決めつけの一言で思考停止。そんなことないですかね?で、そういう空気作りに一役買っている国内山岳メーカーもあまり好きになれないわけですな。

でも「」は好きですよ。本当にバタバタと人が死にますけどね。

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異論反論・ロジックの不備・他のソース・誹謗中傷など、なんでもご指摘のコメントいただければ幸いです。ファクトがあればころっと転びますので、私。

 

[1/16追記] 見事にロジックの不備があったので次エントリーで修正しますよ。

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